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ハンター日記

なぜ狩猟を辞めるのか? 辞める理由は維持コストと法規制

投稿日:

2019-12-05 No.521

北海道十勝のハンター、モーリーです。

興味深い論文がありました。

タイトルは「日本の狩猟者はなぜ狩猟を辞めるのか?」-狩猟の維持政策への提言-(2012)

老齢や病気ではない理由で狩猟を辞めた猟師たちへアンケート調査を行い、辞めた理由を整理した論文です。

要点を整理してお届けします。

引用論点:
日本の狩猟者はなぜ狩猟を辞めるのか?

 

 

猟師減少の概要

狩猟の様子
[2017.2北海道釧路 狩猟(集団猟)の様子]

最初に、猟師の役割として農業被害を与える害獣の捕獲、個体数管理、市街地に出没した動物の捕獲といった捕獲能力に加え、野生生物のモニタリング機能、猟師が支払う狩猟税などにより経済的貢献機能など、多様な社会貢献について評価しています。

狩猟者が減少しているにもかかわらず、農業被害を与えている有害駆除捕獲個体数は増加しており、猟師一人当たりの捕獲努力量が増加しているとも報告しています。

しかし、猟師を取り巻く社会的情勢から減少が続いているとし、この傾向は日本だけではなく北米や欧州でも同じ傾向にあるとしています。

この論文では日本における猟師減少要因を調べ、狩猟者数の維持政策を提言することを目的としています。

 

 

 

調査方法

サボット弾
[散弾実包 サボット弾]

この調査では狩猟免許を更新しなかった元猟師を対象にアンケート調査を実施しました。

アンケートは3,409通を配布し、1,409通の回答。

アンケート質問項目は主に

・狩猟を辞めた理由

・狩猟免許の種類(猟銃、罠や網猟など)

・狩猟を継続していた年数

などについて質問しています。

 

 

 

調査結果

エゾシカ 背ロースの刺身
[エゾシカ 背ロースのお刺身 醤油とワサビで最高に美味]

狩猟を辞めた3つの理由

1. 狩猟にかかる経費が高い

2. 銃刀法改正による規制強化により銃所持許可手続きが煩雑

3. 残滓の処理が大変

※この論文(2012年)が書かれる前、2007年に長崎県佐世保市で散弾銃乱射事件が発生、翌2008年には東京都千代田区でダガーナイフ無差別殺傷事件が発生し、2009年に銃刀法が改正され猟銃所持などが厳しく規制されました。

 

調査結果は、猟銃で狩猟する人と罠や網で狩猟する人により違いは見られるものの、基本的に病気や年齢以外を理由に狩猟を辞める人の理由は上記の3つに集約されます。

 

1.狩猟にかかる経費が高い

これは本当に実感します。狩猟税や猟友会への参加費、3年に一度の技能検定費用、弾代など狩猟するためコストが年間4-5万円は掛かります。

更に猟場へ行くためのガソリン代、車の維持費など狩猟は本当にお金がかかります。

これでは金持ちしか狩猟ができなくなります。

狩猟する楽しさや興味が少なくなってきたとしたら、免許を返納して余分な出費をカットしようとするのは当然の判断です。

 

2.銃刀法改正による規制強化により銃所持許可手続きが煩雑

調査結果をみると「免許の更新を失念した」という理由で、狩猟を辞めてしまった人も相当数いました。

これはよく分かる話で、銃で狩猟するためには銃の所持許可の定期的な更新、毎年の銃検査、狩猟免許の申し込み手続きなど、猟銃で狩猟するためには多くの手続きが必要です。うっかりして免許や許可の手続きを失念することは私の周りでもよく聞く話です。

銃を持つ以上、手続きが煩雑なのは仕方がないのかもしれませんが、その手続きや検査などは平日の昼間に行われます。平日の昼間に自由時間を確保するのが難しい方にとって銃の所持を維持するのは簡単ではありません。

これでは退職後しか狩猟ができなくなります。

 

3.残滓の処理が大変

鳥獣法第18条に「鳥獣の放置等の禁止」、第19条に「適切な処理が困難な場合又は生態系に及ぼす恐れが軽微である場合」という項目があります。

残滓(ざんし)の処理とは、獲った獲物を解体したあと土に埋めるなど適切に処理しなくてはならない、という法律です。

動物の死骸を放置しておくとクマを誘引してしまう、自然景観を損なうなどの理由から設けられた法律です。

北海道だと真冬にエゾシカを獲り解体すると、凍り付いた土を掘り起こして残滓の処理をしなくてはならないため大変です。

残滓の処理を理由に狩猟を諦める方もいるようです。

 

 

考察

この論文では上記の調査結果を基に狩猟者数維持のために、5つの提言をしています。

五つの提言

1.猟銃規制強化に対する、猟友会組織の対応力強化

2.狩猟にかかる経費問題の整理

3.鳥類の狩猟環境の改善

4.鳥類から大型獣への転向の促進

5.狩猟初心者を教育・育成するシステム構築

 

1.猟銃規制強化に対する、猟友会組織の対応力強化

猟銃に関わる法律や煩雑な規制に対応できる体制を、地元猟友会が構築してはどうかと説き、特に技能講習という新しい(2012年当時)仕組みへのサポートを各猟友会へ提言しています。

 

2.狩猟にかかる経費問題の整理

狩猟に成功した獲物をスムーズにジビエに回せる仕組みを行政が整備せよと説いています。

ジビエに回した分を肉資源として有効活用し、狩猟者へも利益が還元ができる仕組みの構築を提言しています。

 

3.鳥類の狩猟環境の改善

狩猟対象鳥獣の減少などに放鳥などで対応してはどうかと説いています。ヤマドリなどを放鳥事業対象種として計画的にすすめて個体数の増加を促す提言をしています。

 

4.鳥類から大型獣への転向の促進

鳥類を目的に狩猟を始めた猟師は、大型獣の狩猟へ転向する事が難しいとの指摘をしています。

各猟友会が駆除会などに鳥類を主に獲っている猟師へ声掛けし、イノシシやシカなどの駆除に参加を促し、鳥類だけではなく大型獣の狩猟を促す仕組みの構築を提言しています。

 

5.狩猟初心者を教育・育成するシステム構築

ベテラン猟師が狩猟初心者へ指導・教育する機会を提供せよと提言しています。

狩猟を辞める理由のひとつに「捕獲技術が向上せず、獲物が獲れない」があります。狩猟経験が浅いまま辞めてしまうことを防ぐためにも、ベテランと初心者を繋ぐ機会の創出を促しています。

 

 

後記

この論文は7年前、2012年に書かれた論文です。

現在は狩猟者の数は2009年から19万人前後で推移し、猟師人口は下げ止まったといえる状況です。

昨今、狩猟やジビエが静かなブームであると感じます。理由は分かりませんが、狩猟を題材とした漫画などが影響しているのかもしれません。

しかし、狩猟をするためのコストは高止まりしています。

また、北海道では狩猟できる日程や場所も厳しく制限されており、平日の昼間に行われる銃検査など法規制や諸手続きも煩雑なままです。

本来、狩猟者と行政は地域の安全のために共に手を携えていくべき関係にあると思っています。

先日も北海道帯広市の中心部にヒグマが出没し帯広警察署と帯広市役所、そして帯広猟友会が迅速に対応し被害者を出さずに対応しました。

 

関連記事:
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「モーリー、狩猟辞めるってよ。」とならないよう煩雑な手続き頑張ります。

猟師の貴方も技能講習と経験者講習会の手続きと日程をお間違えの無いよう。

 

したっけぃ

  • この記事を書いた人

モーリー

東京からUターンして、2015年から北海道で狩猟しています。趣味は旅、料理、読書、アニメなど。仕事は元絵描きで環境調査、インバウンドなど。 ブログは狩猟を軸に、自然と人の折り合いのつけ方、本質的な豊かさの模索をテーマにしています。

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